PFLUEGER BULLDOG
OCEANC No.2859 Free Spool
WILLIAM DRAG and Anti-Reverse
今回はソルトウォーターフィッシング向けのハンドルドラグのお話です。
画像は1920年代の Pflueger Bulldog サーフキャスティングリールの主力モデル OCEANIC です。過去記事でも書いたとおり OCEANICシリーズは、最小の100ydサイズから最大の400ydサイズまでの7サイズ設定。2種類のボディー表面仕上げ(光沢 or サテン)があり、全14モデル展開でした。今回紹介するのは、300ydサイズ No.2859(サテン仕上げ)。それにオプションのウィリアムズドラグ(Williams Drag) と アンチリバース(Anti-Reverse) ユニットが装着されたものです。
PFLUEGER WILLIAMS HANDLE DRAG
PFLUEGER CUB-HANDLE DRAG
1926年。Enterprise Mfg.(Pflueger Bulldog) は、既存のダイレクトリールに汎用的に後付けできるハンドルドラグ PFLUEGER - WILLIAMS HANDLE DRAG を発表しました。当初は " TEMPLER " との組み合わせでカタログに掲載、紹介されました。同社のベイトキャスティングリール向け、カブハンドルドラグ(Cub-Handle drag)のソルトウォーター版です。Cub-Handle より Williams drag のほうがその歴史は古いです。
リールのドラグシステムは、海釣りの大型魚とのファイトのために発明されたもので、Julius vom Hofe の B-Ocean Reel のドラグシステム(1911年)が代表的なものでした。現代の海釣用マルチプライングリールは、B-Oceanリールの基本構造を採用しています。1920年代では、B-Oceanのドラグシステムはパテントで保護されていたため、同時代に他メーカーがB-Ocean構造のドラグシステムを使うことは、ほとんどありませんでした。
一方で、B-Oceanより古い設計(1902年)のラベスドラグ(Rabbeth Drag Handle)のハンドルドラグシステムを採用するメーカーが出てきました。Enterprise Mfg (Pflueger) 社や Ocean Cty 社です。
ラベスドラグの構造は、ハンドル中心部に複数枚のワッシャーが組まれ、6ヶ所のネジの締め込みを調整することでドラグテンションをセットする仕組みでした。この構造をそっくり採用したのが、オーシャンシティーのガバナーハンドルドラグ(Governor Handle Drag)や、戦後に普及していったフルーガーのCub-Hndleなどでした。
海の大型魚向けに開発された PLUEGER-WILLIAMS HANDLE DRAG も、ラベスドラグの基本構造を踏襲していました。
WILLIAMS HANDLE DRAG はシングルハンドルとダブルハンドルの2タイプがあり、2種類のドライブシャフト径に適合するサイズが設定されていました。ウチの個体はダブルハンドルです。ハードラバー製大型ハンドルノブは現代のリールには無い独特な雰囲気があります。
画像は全パーツを分解した状態です。ハンドル中心部にドラグワッシャーを持ってくる構造はラベスドラグ式ですが、別物と言って良いほど各部が洗練されています。ドラグテンションはドラグホイールを締め込むことで調整できます。そうです… WILLIAMS DRAG は、ラベスドラグの汎用性と B-Oceanのスタードラグの要素を備えたドラグシステムなのです。
ハンドルドラグといってもドラグワッシャーはかなり大径のものが使われていて、その性能は現代のリールと比べても遜色の無いほど高精度に作られています。そして、さすが大型魚用のドラグだけあってドラグパワーもかなりあります。そして取説には " こぶしを怪我することはない " と、あえて書き添えられていました。当時のナックルバスターリールによる怪我は、それほどまでに深刻な問題だったのでしょうね…w
この個体(OCEANIC No.2859 - 300yd)には、フリースプールレバーとは別にもうひとつレバーが付けられています。コレは、Williams Handle drag と同じくオプション設定された簡易アンチリバース (Anti-Reverse) です。レバーを下ろすとハンドルシャフトの逆転を止めるストッパーが飛び出ます。
ストッパーはスプリングテンションがかかっていて、ハンドル正転では斜めにカットされたストッパーが引っ込み巻き続けられます。逆転ではハンドルがストップします。つまり、つっかえ棒アンチリバースです…w フルーガーは、WILLIAMS DRAG と Anti-Reverse を組み合わせることで、ナックルバスターリールの欠点を払拭し、B-Oceanリールに対抗する手段を取ったわけですね。
WILLIAMS DRAG は、汎用的に既存のナックルバスター(ダイレクトリール)に使えるところも優れた点でした。スクエアホール型のハンドル(ドライブシャフト)に適合します。同じスクエアホール型であれば、フルーガーやフォーブラザーズの他にオーシャンシティーのリールなどにも汎用的に使えます。
サイズは2種類設定されていて、OCEANICシリーズでいえば100yd〜150ydサイズは1/4インチホール用。200ydサイズ以上の中大型モデルには5/16インチホール用が適合します。ドライブシャフト径でその適合を見分けます。ウチのWILLIAMS DRAG は5/16インチホール用です。
PFLUEGER INTER OCEAN No.1885
画像はPflueger INTER OCEAN No.1885 に WILLIAMS DRAG を取り付けてみました。INTER OCEANはサーフキャスティングリールとしては最小サイズ(100yd)ですが、旧ハードラバープレート大型モデルと同じ5/16インチドライブシャフトが採用されているので、バッチリ適合しました。大好きな Pflueger BOND は残念ながらスクエアホール型ではないので適合外でした…。
本来は200ydサイズ以上の中大型リールに使われる 5/16インチホール用 WILLIAMS DRAG ですが、小型の INTER OCEAN に、でっかいハンドルドラグを装着すると、現代のソルトルアーフィッシング用のリールのようなバランスになって結構カッコ良いです…w
手持ちの OCEANIC Double Multiplying シリーズを並べてみました。左から
No.2819(Polished Nickel) - 300yd ,No.2859(Satin Silver Nickel) - 300yd ,No.2815(Polished Nickel) - 100yd です。同シリーズは、手軽なベイサイドフィッシングからトローリングまで、ほとんどの海釣り用途を網羅していました。そして全モデルに適合する WILLIAMS DRAG が設定されていました。
ウチの 5/16インチホール用 WILLIAMS DRAG は、最小のNo.2815 には適合しません…。というか、小型リール用の1/4インチホールサイズの WILLIAMS DRAG を見たことが無いのです。そもそも1920年代当時、小型リールにはドラグシステムは不要と考えられていた時代だったため、それほど需要は無かったのかもしれません。なので中古品流通がほとんど無いのです。もし現存する1/4インチサイズ WILLIAMS DRAG があるのなら、それは激レア品です…。
そんな風潮が理由だったからなのか?Pflueger のベイトキャスティングリール向け " CUB-HANDLE " の発表は、WILLIAMS DRAG よりずっと後年の1939年でした。ベイトキャスティングリールに、フリースプール、アンチリバース、ドラグ(の3点セット)が標準装備され始めたのは ABU Record No.5000 の登場(1952年)以降です。
Julius vom Hofe の B-Ocean Reel は、揺るぎない存在であったことは確かでしたが、Pflueger や Ocean City が工夫を凝らし、それに対抗するフリースプールやドラグシステムを開発した情熱には敬意を表さずにはいられません。
今回取り上げた OCEANIC WILLIAMS DRAG + Anti-Reverse は、1920年代のハリウッド映画俳優であり、ソルトウォーター・アングラーでもあった、上山草人(かみやま そうじん 1884年1月30日 - 1954年7月28日)も愛用していました。1919年に渡米し、米国のソルトウォーターフィッシングを趣味としていた日本人なんて、そうそういないと思います。当時日本はまだ大正時代です…w
WILLIAMS DRAG + Anti-Reverse (←ふたつ揃った)ハードラバープレートリールの中古品は、現在はかなり希少で、e-Bayでもなかなか見かけません。今後も入手はますます困難になっていくと思います。
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