A.F.Meisselbach Neptune "Free Spool"
Triple Multiplying, Free spool
Nickel-silver frame and spool, hard rubber plates, steel axles set, click and automatic drag, crank black rubber handle, equipped with Takapart featue.
Line capacity :
Cuttyhunk line 9 = 250yds.
Cuttyhunk line 12 = 195yds.
Cuttyhunk line 15 = 155yds.
*Number of Pflueger reel = 150yds.
A.F.マイセルバック・ネプチューン。
ローマ神話の "ネプトゥーヌ" (ギリシャ神話のポセイドン)の英語読み "ネプチューン" と名付けられたリールは、アメリカ・A.F.マイセルバック社によって1911年から製造・販売されました。"海神" の意味が示すとおり "海釣用" のリールです。1918年には、よりライトな設計の第2世代 New Neptune が登場し1932年まで販売されました。
New Neptune
マイセルバックというメーカーは、過去記事で何度か紹介しましたが、アメリカの初期のリールメーカーで、1900年代初頭に先進的な機構を搭載した高品質な淡水用ベイトキャスティングリールを製造・販売していました。今回はそんな先進技術を惜しみなく取り入れた海釣用キャスティングリールのお話です。
Neptune Free spool 150yd . マイセルバックの小型 (150ヤードサイズ) キャスティングリールです。ジャーマンシルバー(ニッケルメッキされた真鍮製)フレームにハードラバープレート、というニューヨーク系キャスティングリールの古典的スタイルですが、その中身は当時(1910年代)としては先進的な技術がふんだんに取り入れられていました。
1914年のA.F.マイセルバックカタログによると…。カタリナアイランド・フィッシングクラブメンバーからの要望により、開発に至ったと書かれています。その要望とは、カティハンクライン#9を、600フィート(約183m)巻き取れるラインキャパシティーを確保した上で、ハードな釣りにもじゅうぶんな強度を備えた、より小型で軽量なリールが求められていました。ネプチューンはそんなニーズに応えるカタチで特別設計されました。
ウチの個体のリールフットを見ると、"A.F. MEISSEL BACH MFG. Co. ELYRIA, O. U.S.A." と刻印されていることから、1921年以降に製造されたものです。(マイセルバック社は1921年から製造拠点をオハイオ州エリリアに移転)新型第2世代 New Neptune と並行販売されていたようで、この個体はモデルチェンジ過渡期の第1世代後期モデルです。おそらく1921〜1923年製と思われます。ちなみに1911年〜の初期型にはフリースプールは未搭載で、右プレートの軸受けキャップに宝石(サファイア)があしらわれていました。後期型は真鍮キャップです。
画像をよく見るとドライブユニット側のフレームに水抜き穴があります。この時代のリールでは珍しく、下位モデルのTritonにも、同様な穴が開いています。もしかしたらこの水抜き仕様は Meisselbach が元祖なのかもしれません。
Neptuneには、マイセルバックの傑作ベイトキャスティングリール Tri-part, Taka-partでお馴染み簡易分解機構が採用されました。
画像のように3分割がカンタンにできます。Tri-partのようなプレートねじ込み式ではなく、フレーム右側についている丸いポッチ(Takeapartボタン)を左にずらすとロックが解除され、右プレートを半時計回りに少し回すと右プレートがごっそり外れます。じつはこの機構…Penn Squidder や Surfmaster でお馴染み Take-apart の元になったものなのです。
左プレートに刻印された3つのパテント MAY 21-1912, FEB 5-1912, APR 13-1915 のうちひとつがTake-apart機構だと思いますが、パテント失効の1935年以降に、タイミング良く(1938年) Penn SQUIDDER が発表されたということですね。
画像左はNeptune (1911年販売開始) 画像右は Penn Surfmaster (1941年販売開始) 。30年の年代差がありますが、同じ系統のリールであることが見て取れます。ギア比もTriple Multiplying (3 : 1) で Neptune と Surfmaster は同じです。Ocean City や Penn, Pflueger といったメーカーのサーフキャスティングリールの基本スタイルは Julius Vom Hofe の仕様を踏襲しているのですが、簡易分解、ギア比といった細かな仕様は、Meisselbach Neptune や Triton の影響が大きかったりします。
Neptuneにはユニークなフリースプール機構があります。Tri-partのカム式フリースプールではなく、プッシュボタン式フリースプール機構が採用されました。画像の右プレート下側についているマイナスネジのパーツがフリースプールボタンです。
ボタンを押すと、カチン!と瞬時にプレート側のメインギアとスプール側のピニオンギアが分離します。この機構は、Julius Vom Hofe のB-OCEAN REEL のパテント回避のために考案されたものだと思われます。後年、Pflueger や Ocean City も同様なギア分離式フリースプール機構を取り入れていました。文章で説明するのはむずかしいので動画にしてみました。
動画のようにキャスト時は、ボタンを押すと瞬時にハンドル (メインギア + メインシャフト) ごと前にスライドしてスプールフリーになります
…が、巻き上げ時は、ハンドル全体を手前にカチンと鳴るまで手動で戻さないとギアを再接続できません。結構強いバネが使われているので、それなりにチカラが必要です。
"行きはよいよい帰りは怖い" 的 (?) な仕様というわけですね…w
このメカニズムじたいは非常に面白いのですが、マイセルバック社もフリースプールからのリターン機構が使い難いという点に気づいたのか…? 第2世代 New Neptune では、マニュアルレバー式に仕様が変更されました。のちに Ocean City, Pflueger がマニュアルレバー式フリー・リターンを採用したことからも、レバー式のほうが使い勝手が良かったのでしょう。
Neptuneにはもうひとつユニークな機構が取り入れられていました。左プレートにはクリッカーとは別に AUTOMATIC DRAG と呼ばれる横スライド式のボタンが付いています。これは Meisselbach 独自のドラグ機構です。
左プレート内側を見ると何の変哲もないバネでテンションをかけるラチェット機構ですが…
Meisselbachのドラグシステムの秘密はスプールにありました。スプールにラチェットギアを兼ねたドラグプレートが備わっているのです。Automatic drag のボタンをオンにすると巻き上げで小気味よいラチェット音が鳴るようになります。
じつはコレ、アンチリバース用のラチェットストッパーではなくハンドルは逆転します。その逆転時にドラグが効く仕組みになっています。ドラグテンションは固定式ですが、現代の釣りにも通用する実用的なドラグが効き、それでいて巻き上げは非常に軽いという秀逸な機構なのです。
これをアンチリバースにしなかったのは、おそらくJulius Vom Hofeのパテント回避のためだとは思いますが、Neptuneの AUTOMATIC DRAG はとても良くできたドラグシステムで、初めて見た時は感動してしまいましたw
画像は、Julius Vom Hofe B-OCEANを除く、主要メーカー各社の戦前設計(1920年代〜1930年代)のサーフキャスティングリールを並べています。これらのお手本となったのが Neptune, Triton といった Meisselbach 製リールだったというわけですね。
カヤックフィッシング・ブログ集