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2021年07月17日

あらいぐまラスカルを再現 ~ SAMSON STEEL ROD ~


Union Hardware Co.
Samson Steel Fishing Rod
Enterprise Mfg.
PORTAGE SENTRIE - 60yd


今回は小説に登場したフィッシングタックルのお話です。

児童文学の傑作といわれる「はるかなるわがラスカル(原題:Rascal)」。日本ではアニメ「あらいぐまラスカル」のほうが馴染みがあるでしょうか。

同作の主人公にして、著者自身でもあるスターリング・ノース(Sterling North)が、作中で使っていたタックルを再現してみました。原作で書き綴られたスターリングの釣り…。そしてアニメ「あらいぐまラスカル」の釣りの描写もあわせて掘り下げていこうと思います。


少年期のスターリング・ノース / 作家として活躍していた頃のスターリング・ノース

ブログタイトルを「あらいぐまラスカルを再現」としていますが、ラスカルを再現するのではなく、ラスカルの物語に登場したフィッシングタックルの再現です…w




スターリングがラスカルに出会ったのは1918年5月。物語の舞台となったウィスコンシン州南部は緑豊かな農村地域で、11歳のスターリングが楽しんだ主な釣りは、バスプラグを使ったバスやパイク釣り。ミミズ餌のナマズ釣り。時にはウエットフライをルアーロッドで(無理矢理)キャストしてトラウトを狙うなど…あの手この手でサカナを狙う、11歳の少年らしい節操の無い釣りでした。ぼく自身も小学生だった頃を思い出してみると…たしかにそんな感じでしたw



原作のスターリングのタックルは、瑪瑙(メノウ)ガイドのつなぎ竿にリール。シルクラインの先に天蚕糸(テグス)リーダーを結び、ヨリモドシを付けてから、赤白まだらのルアーを付けてバスを狙ったとされていました。スターリング少年の移動手段は自転車。魚籠を肩に掛けて、マルチピースのスチールロッドを自転車フレームにくくり付け、リールやルアー、仕掛けを入れた道具箱は前カゴに。その前カゴにラスカルも乗せてロックリバーの秘密の釣り場へ…というものでした。


実在するロックリバーのインディアンフォートダム
アニメ版では画像の対岸下流側の砂州がスターリングの秘密の釣り場とされていました。


何年か前に、ネット上で知り合った " 両軸リール愛好家 " のヒトたちと、スターリングが使っていたタックルは何だろう?と盛り上がったことがあって、その時に精度の高い解答をしてくれたのが、福岡のバイクチューナーぐりふぃんサンでした。彼は原作から読み取ったタックルをわかりやすく教えてくれました。スターリングは " スチールロッド " を使っていたと…。

なぜスチールブランクのロッドか…?というと、欧米には日本でお馴染み " 竹 " という植物が無く、フィッシングロッドといえば木製か鉄製が普通で、高価なスプリットバンブーロッドは一般的ではありませんでした。20世紀初頭の米国では " 鉄製ブランク " のロッドが主流でした。

原作やその他の情報を統合すると、スターリングのロッドは、スチールブランクのマルチピースロッドで間違いないでしょう。


Union Hardware Co. Samson Steel Fishing Rod

画像は、Union Hardware 社の Samson Steel Fishing Rod 5フィート4インチ。瑪瑙(メノウ)リングガイドの携帯性に優れた4ピースロッドです。スチール製といっても曲げたらもとに戻らないような鉄ではなく、非常に弾力とハリのある鋼材でつくられていて、スプリットバンブーより高い弾性を持ったブランクです。



Union Hardware 社について少し解説します。1864年。コネチカット州トリントンで創業。当初は錠前鍵を作る金属加工業としてスタートし、のちに " アイススケート靴 " の製造メーカーとしてその名を馳せました。1905年には、スチールロッドやリールの製造が始まり、とくに Samson Steel Fishing Rod は、Travel Rod , Suitcase Rod または Gentlemen Rodと呼ばれ、マルチピースロッドとしては非常に品質の高いものでした。



スチールロッドといえば Horton Mfg 社の Bristol Rod が有名です。不思議なことに Horton Bristol と Union Hardware Samson の仕様は酷似しています。リールシートのトリガー付きリングロックはHorton のパテントのはずですが、Union Hardware にも同じリングロックが採用されています。もしかしたらHorton のOEM あるいはライセンスアウトにより Union Hardware で製造されたものかもしれません。

何にしてもスターリングのロッドは、Bristol ではなく、Union Hardware 製だとにらんでいます…。

その理由は…スケート靴です。

原作、アニメともにスターリングは、クリスマスにスケート靴をプレゼントされています。ウィスコンシン州の冬は雪に覆われ、池には厚い氷がはります。この地域に住む人々の冬の娯楽のひとつにアイススケートがありました。氷のはった湖沼でスケートを楽しむのです。



前述のとおり Union Hardware はスケート靴の大手メーカーで、スターリングが住む地域にも流通していたはずです。スターリングのスケート靴も Union Hardware 製だった可能性が高いわけです。スケート靴の販路が確立されていたのなら、オフシーズン(春〜秋)には、当然のごとく釣具も流通していたのではないか…と。スターリングの住むエジャトンの町の雑貨屋に普通に置かれていた、といってもおかしくありません。Union Hardware Samson Steel Rod は、11歳の少年が自転車で持ち運ぶのに都合が良いマルチピース。そしてメノウガイド仕様なのも原作どおりです。

そんなわけで自分的には、スターリングのロッドは Union Hardware Samson Steel Rod

…であってほしいと思っています…w


Enterprise Mfg. PORTAGE SENTRIE - 60yd

続いてスターリングのリール。画像は PORTAGE SENTRIE 60ydサイズ。Enterprise Mfg 社の3大ブランド (Pflueger Bulldog , Four Brothers , Portage)のひとつ、PORTAGE の Quadruple (4 : 1)ダイレクトリールです。


左:Samson reel 右:Sunnybrook Reel

Union Hardware にも、ロッドと同シリーズ名のSamson Reel や Sunny Brook Reel がありましたが、当時(〜1918年)の Union Hardware 初期リールは、Hendryx のOEMで賄われていました。それらはフライリールの延長線的な旧態設計で、キャスティングにはあまり向かないものでした…。原作で描かれたスターリングの釣りは難しいんじゃないか…?と、いうわけで除外しました…。同社が(まともな)ベイトキャスティングリールの製造を始めたのは、後年になってからでした。



11歳の少年でも、そこそこのキャスティングができて、大型魚(チャンネルキャットフィッシュ)とのファイトも何とかなるリールという条件で絞り込んで、老舗のEnterprise Mfg.(フルーガー)の初期のダイレクトリールを組み合わせてみました。当時は、Shakespeare のレベルワインドリールも存在していましたが、まだ普及には至らず、レベルワインダー無しのベイトキャスティングリールが主流でした。



PORTAGE SENTRIE は、淡水用60ydサイズのダイレクトリールで、左プレートにはクリッカーと、非調整式メカニカルブレーキが搭載されています。ブレーキはキャスティング用ではなくファイト用のものです。簡易ドラグといったほうがわかりやすいですね。ブレーキをオンにすると高テンションのブレーキが掛かり、スプール逆転を強く抑える仕組みです。そのぶん巻き上げも重くなります。黎明期のニューヨーク系リールではよく見られた仕様です。SENTRIEは淡水用のベイトキャスティングリールに簡易ドラグが搭載されているわけです。キャスティングの補助機能はいっさい無く、キャストはサミングのみでコントロールします。


実在するスターリングの家



ここまでは原作のタックルのお話でしたが、アニメ版ではどんなタックルが描かれていたのでしょうか。




アニメ版の作中ではスターリングのロッドは原作と同じく「リール付きのつなぎ竿」とされていました。ノース家の留守番を頼まれたオスカーは、スターリングのタックルを釣り場に持ち出し、初めてのリールをうまく使えず、盛大なバックラッシュをさせてしまいます。

スターリングは、それをとがめることなく、留守中にラスカルやハウザーの面倒をみてくれたお礼にと、そのロッドとリールをオスカーにプレゼントします。



アニメの作画では、かなりの長竿で描かれ、リールはバーミンガムタイプのシングルアクションフライリールがセットされていました。アニメ版は(おそらく)釣りを知らない人の作画で、実物とのギャップは当たり前なことなので、釣りの知識があるヒトは、作品の時代的な背景から、それらを現実的に脳内補間する必要がありますw たとえば長竿は、5フィート程度のルアーロッドだとか、リールはベイトキャスティングリールに…というふうに…。個人的には、両軸受構造のバーミンガムタイプリールでキャスティング、というアニメの無茶設定は結構好きなんですけどね…w



スターリングの2代目タックルは、父ウィラードからもらったものです。友人オスカーは念願叶ってリール付きつなぎ竿(元スターリングのロッド)を手にしています。これは原作には無く、アニメ版のみの設定です。



スターリングのロッドはブランクカラーからして、スプリットバンブーロッドか、それともウッドポールか…。リールは茶系プレートのダイレクトリールです。ハードラバープレートのリールだとすればしっくりきます。



アニメ版のみの設定ですが、カール青年が勤める、スリーレイクス・ノーザネイルホテルに旅行に行った時のシーンです。アリスと一緒にカナディアンカヌーに乗ってブラウントラウトを釣り上げます。このタックルはカールからの借り物だと思われます。原作ではバート・ブルース老人のカヌーを借りて父ウィラードと釣りをするシーンとして描かれました。釣り上げたブラウントラウトは1.8kg…。ちょうど(生後4ヶ月の)ラスカルくらいの重量だったようです。スターリング少年にとって初めての大物トラウトでした。



これもアニメ版のみの設定ですが、物語終盤ではアリスもついに自分用のタックルを持参します。父親のものを借りてきたのか? それとも買い与えられたもなのか…? きっと…スリーレイクスの釣り体験が忘れられなかったのでしょう。



アリスのロッドは、Montague Rod や Bristol Rod で多く採用された(ミシュランマン型?)ウッドグリップですね。



3人揃って自転車で秘密の場所へ向かう時は、スターリングがアリスのロッドを持ちます。オスカーはキャスティングがうまくできないアリスのために、代わりにキャストしてあげたり餌のミミズを付けてあげたりと、先輩アングラーとしての貫禄を見せてくれます。



さて、原作タックルの話に戻して…。



スターリングが使ったリグについて。作中では赤白まだらのバスルアーを使ってバスを釣ったとされていました。それ以上の詳細は書かれていなかったのですが、当時の赤白カラーのルアーで、11歳の少年でも扱いやすいもの…というところで、サウスベンド・バスオレノを選んでみました。画像のオレノはスターリング少年の時代より新しいもので、グラスアイが入ったウッド製です。1918年頃のオレノはアイの無いタイプでした。

赤白のダーデブルスプーンも思い浮かべましたが、作中でバスルアーと明記されていることと、バスプラグというワードも使われていることから、トップウォータープラグだと推測しました。

そして、スターリング少年の多用途フィッシングスタイルの重要アイテム、スプリットショット…。スプリットショットとは、その名のとおりショットガンの弾丸にナイフで2つ割り、もしくは4つ割りに切れ込みを入れたもので、釣り用のオモリとしては最高の素材でした。今は釣具屋で普通に売られているものですが、1918年当時は猟銃の弾丸そのものを、釣り用オモリとして流用していました。


実在するウェントワースの森

ウェントワースの森には少し探せばハンターの猟銃の散弾が転がっていて、スターリングやオスカーは、それらを拾って釣りに使っていたのかも知れません。スプリットショットリグにすれば、スターリングのスチールロッドでも、ウエットフライ(ストリーマー)をキャストすることだってできるし、ミミズ餌を使ったナマズのぶっ込み釣りにも対応できるわけです。ちなみに日本でいう " ガン玉 " も猟銃の弾丸由来です。Gun 弾 → ガン玉。なぜガンだけ英語なのかはわかりませんが…w



原作では、スターリング少年はフライフィッシングへの憧れから、フライフィッシングタックルが欲しくてたまらなかった…と書かれていました。

フライはトラウトにもバスにもとても有効で、バックテイルストリーマーをスチールルアーロッドでキャストして、3kgサイズのバスを釣る描写がありました。そして、作中最大の見せ場は、フライフィッシング名人のバート老人のカヌーを借り大型ブラウントラウトを釣り上げるのでした。

作中でスターリングがフライロッドを手にすることは無く、すべて愛用のスチール製ルアーロッドでの釣りとして描かれました。



ラスカルの物語に登場したタックルは大体こんな感じです…。仮説的な部分は多いですが、原作や関連書籍から得た情報、釣具の時代的考証は(以前より)だいぶ精度が上がってきたと思っています。

最近は動画サイトで日本アニメーション作品が公式配信されています。あらためて視てみると、色んな気づきがあって面白いんですよね〜

かなりハマっています…w






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Posted by Fishbone at 10:47Comments(0)OLD FISHING TACKLEBAITCASTING