Meisselbachの末裔 ~ J.A.Coxe Coronet 25 ~

Fishbone

2021年08月09日 16:01


Bronson J.A.Coxe Coronet 25
Free Floating Live Axle Design

今回は、最近のぼくのブログ記事では、久しぶりの新しめのリールのお話です。

画像は、Bronson Reel社の J.A.Coxe Coronet 25 です。かなり有名(人気)なダイレクトリールなので、今さら説明するまでもありませんが、" Level-Winding ", " Free-Spool " , " Easy Take-Apart " と、三拍子揃った傑作ベイトキャスティングリール No.25 のバリエーションのひとつです。



Bronson Reel社について少し解説します。
1922年。ミシガン州ブロンソンにて創業。1931年。Bronson Reel 社は、JA Coxe Reel 社 と A.F.Meissellbach Mfg 社を買収しました。海釣用リールの製造技術に長けた JA Coxe と、淡水用ベイトキャスティングリールやフライリールの製造技術に長けた A.F.Meisselbach を傘下に引き入れたのです。1939年。J.A.Coxe No.25リールを市場投入しました。のちにロングセラーモデルとなり、同社で最も成功したリールでした。



1941年。米国の第二次世界大戦参戦により国内のリールメーカーのほとんどはリール生産を中止し、戦争生産へと移行しました。JA Coxe No.25も戦時中は生産中止となり、戦後の1946年にリール生産が再開されました。

No.25リールのバリエーションは非常に多く、例外的なカラーやパーツの組み合わせなど…とてもすべては網羅しきれません…w 簡単な識別方法はモデル型式末尾のアルファベットで区別します。

25リールの型式とざっくりとした仕様一覧です。

No.25-C
No.25シリーズ基本モデル。フリースプール仕様、アルミニウムスプール仕様、コルクアーバー付き
No.25-A
No.25-Cのフリースプール無し
No.25-B
No.25-Cのジャーマンシルバースプール仕様、スプリットコルクアーバー付き
No.25-D
No.25-Bのフリースプール無し、スプリットコルクアーバー無し
No.25-E
No.25-Cのスペアアルミニウムスプール付き、コルクアーバー付き
No.25-F
No.25-Bのスペアアルミニウムスプール付き、コルクアーバー付き
No.25-N
No.25-Cのナロースプールモデル



ぼくが所有するCoronet 25は、レギュラーモデルNo.25-Cと同仕様で、アルミフレーム、シャローアルミスプール(旧モデルのコルクアーバー径)を採用した軽量モデルです。戦後しばらく経ってからの新しめのリールです。1951年にカタログに登場し1960年まで販売されました。



JA Coxe No.25シリーズの特徴的な機構は、クロスボルト(cross-bolt)を採用したTake-Apartデザインです。スプールシャフトを兼ねたロングボルトを外すだけで、工具を使うことなく分解が可能です。クロスボルトはサイドプレートも一緒に固定するため、プレート表面にネジ類が無い洗練された意匠を実現していました。No.10 , No.15 , No.30など同社の他のリールにも採用されたものです。



そして…もうひとつの重要な要素 フリースプール(Free-Spool)。この分解パーツ画像を見て、あることに気づいたヒトは、結構なマニア(?)だと思います…w



そうです。このフリースプールメカニズムはA.F.Meisselbach が開発したカム連動式フリースプールなのです。No.25ではハンドル(ドライブシャフト)基部にカムが取り付けられ、メインギアの接続・解除をする構造が採用されました。スプールフリー時もレベルワインダーの連動を維持する必要があったため、この構造になったのだと思われます。

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画像はA.F.Meisselbach Tri-Part No.581のフリースプールパーツとの比較です。ご覧のとおり全く同じです。1906年に発明されたフリースプールメカニズムが、約30年後にさらに洗練されて登場したわけですね。プレート内側の黒いゴムパーツはキャストコントロール用のメカニカルブレーキです。


A.F.Meisselbach Tri-Part No.581
J.A.coxe Coronet 25


画像左は、A.F.Meisselbach Tri-Part No.581。右は、J.A.coxe Coronet 25。約半世紀の歳の差リールです。元祖カム連動式フリースプールリールと、その末裔といったところでしょうか。



J.A.Coxe No.25 は、世界恐慌後の大量生産時代の設計で、製造コスト面で Tri-Part のようなマシンカットフレームは採用されませんでしたが、Coxeの海釣用リールで多く使われた、金属フレーム、ベークライト樹脂プレート仕様でパーツコストを抑えつつ、フレーム、スプールといった金属パーツにアルミを採用することで、非常に軽量なリールとして、デザイン面、性能面ともに Tri-Part を超えた傑作モデルでした。



Bronson Reel社は、戦前の最盛期には130以上の製品があり、1日あたり 1,000〜3,000個のリールを製造していました。戦後の1946年以降は、製品ラインナップが大幅縮小され、その中には JA Coxeブランドを象徴する Big Gameリールも含まれていました。おそらく、競合のOcean City や Penn には商業的に勝ち目が無いと判断したのでしょう。最終的には製品ラインナップは数10種類まで縮小されました。



1950年代初頭からは、当時、米国で爆発的に流行したスピニングリールとスピンキャスティングリールの開発を開始しました。それまでのベイトキャスティングリールが徐々に淘汰されていった時代です。

ベイトキャスティングリールは、ごく少数の取引先との契約に絞り込み、へドンやシアーズといった大手へのOEM契約が主流となっていきました。Heddon P-41などは、Meisselbach の Take-Apart 技術が取り入れられた非常に質の高いリールでした。


ですが、スピニングリール市場での激しい競争と、旧来のベイトキャスティングリール市場の事実上の消滅により、Bronson Reel社は衰退していきました。1967年。最終的にTrue Temper 社に買収され、その数年後には工場が閉鎖されました。オリジナルモデルのいくつかは、1970年代までTrue Temperによって販売されましたが、1967年が事実上の廃業となっていたわけです。



J.A.Coxe Coronet 25。そのルーツをたどってみれば…A.F.Meisselbach に行きつきます。原点は Meisselbach にあり、Meisselbach が Bronson 傘下になってからは、JA Coxeの海釣用リールの合理的仕様(ベークライトプレート、金属フレーム)が取り入れられ、No.25シリーズの完成に至ったのでした。





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