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2021年09月23日

すべての始まりはここから ~ Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

Julius vom Hofe B-Ocean 6/0
Big game Fishing Reel


釣具世界史において革命的発明といわれる " Star Drag " 。今回は世界で初めてスタードラグが搭載されたリールのお話です。

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

B-Oceanリール。過去記事でも何度か触れたワードです。ニューヨーク系リールを語るうえで欠かすことができないものです。画像は ジュリアス・ボムホフ B-Ocean。6/0サイズのトローリングリールです。

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

19世紀末から20世紀初頭にかけての時代…。米国カリフォルニア州サンタカタリナ島を拠点にカジキマグロなどのビッグゲームを楽しむ " The Tuna Club " という富裕層アングラーのコミュニティがありました。そのメンバーのひとり、ウィリアム・C・ボシェン (William C Boschen) が考案したドラグシステム。それがスタードラグです。そして世界で初めてスタードラグを備えたリールが Julius vom Hofe の " B-Ocean Reel " です。

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

B-Oceanリールのプロトタイプ開発を担ったのは、Julius vom Hofe Company の ジュリアスJr. (Julius Jr. ) 。1911年3月21日に B-Oceanリールのためのパテントを取得しました。この時点では、まだスター型ドラグホイールはなく、市販モデル(ファーストモデル)でスター型ドラグホイールデザインが採用されました。

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B-Ocean Reel の " B " はボシェン(Boschen)の名前から付けられました。ジュリアスJr. は、新型リールに " Boschen Reel " と名づけることを提案しましたが、ボシェンはそれを拒み…というより、ボシェンはロイヤリティやパテントには全くの無関心で、発明者は不明でいいじゃないか、という考えでした。ジュリアスJr. は彼をなんとか説得してイニシャルのBを使うことで折り合いがついたそうです。

" B-Ocean " を(ハイフンを無視して)声に出して発音すると " ボーシャン " → " ボーシェン "…。このモデル名には Boschen を訛らせたような…同音異義語的なカラクリ(?)が仕込まれていました。じつに遊び心のあるネーミングですね…w

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

画像左はB-Ocean 画像右はPFLUEGER OCEANIC。従来型外付けハンドルドラグ(Williams Drag Handle)を装着したものです。

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それまでのドラグシステムは、1902年に登場したラベスドラグ(外付けハンドルドラグ)や、エドワード・ボムホフのレンチ調整ドラグくらいしかありませんでした。これらのドラグシステムは、ハンドルを手で保持していればドラグが機能し、ハンドルから手を放せば従来通りのナックルバスターとなる仕様でした。

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

ナックルバスターとはダイレクトリールのことで、大型魚がヒットしてラインが引き出されると、ハンドルが高速逆転してアングラーの手を負傷させる…。この恐怖の仕様に由来した俗語です。ボシェン自身もナックルバスターで指を負傷した被害者のひとりでした。


従来型ナックルバスターの改良を、もっとも望んでいたボシェンは、1910年にジュリアスJr.と共にニューヨークのフィッシングタックルストアの地下室でリール改良に没頭しました。カタリナで試作リールのフィールドテストが繰り返され、およそ2年に渡る開発期間を経て、1913年にB-Oceanリール市場投入へと至ったのでした。

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

新型B-Oceanリールは、サイドプレート内に、複数枚のワッシャーと、3枚のドラグパッドが内包され、常時アンチリバースとハンドル逆転の無いフリースプール機構を備えていました。ドラグは調整式でハンドル基部に取り付けられた六角星型(hexagram) ホイールを回すことで、ドラグテンションを調整できる仕組みでした。まさに現代のリールの基本性能がすべて詰まった仕様でした。

スタードラグリールは、スプールに指を当てて制動する必要が無く、ラインが引き出されてもハンドルが逆転しなくなりました。釣り人は親指の火傷や打撲傷、骨折などの負傷から、ようやく開放されたのでした。また、1,000LB(約450kg)オーバーの大型魚への挑戦も可能になり、B-Oceanリールは釣具世界史における20世紀最大の発明とされています。

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さて、ぼくが所有するB-Oceanは、6/0サイズ。1927年〜1930年頃のB-Oceanのパテント消滅前後の末期モデルです。ジャーマンシルバーフレームにベークライト製サイドプレート仕様。質感的には木製にも見える、ピアノブラックというのでしょうか。とても美しい光沢です。6/0サイズといえば結構大きなリールです…。専用のレザーケースなんて、まるでバケツみたいな大きさです…w

B-Oceanシリーズは、2/0, 3/0, 4/0, 6/0, 9/0, 12/0 と、全6サイズがラインナップされていました。

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1913年販売の初期型は 4/0 , 6/0 の2サイズが設定され、Julius vom Hofe のサーフキャスティングリールと同じジャーマンシルバーフレーム + ハードラバープレート仕様でした。

B-Oceanリールは Julius vom Hofe 製品の中でも高級機に分類され、1927年当時の後期型6/0サイズの価格は$85でした。現代の貨幣価値に換算すると$1,290です。各部の仕様もかなり凝った(コストの掛かった)つくりになっています。それらの仕様を見ていきましょう。

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

右サイドプレート側にはフリースプール・クラッチレバーがあります。前に押し上げるとスプールフリー。コの字型切り欠きの付いたピニオンギアとスプールが分離されます。レバーを手前に倒すとギアが接続され巻き上げが可能になります。

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左サイドプレート側には、クリッカーオンオフレバーがあります。このクリッカーがまた良く出来ていて、ライン放出方向はテンション強めのブレーキがかかり、巻き上げはテンションが軽くなる工夫がされています。

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右サイドプレートのメンテナンスホールです。スライド式の蓋を開けるとスプールシャフトに注油できる仕組みです。

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左サイドプレートのメンテナンスホール。こちらもスライド式の蓋で、B-OCEANの刻印がとてもカッコイイです♫

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収納式ハーネスリング。ボシェンはハーネス否定派(肉体派)アングラーで、スタンディングファイトに拘っていたそうです。彼の趣向を取り入れたからなのか(?)ハーネスリングは可動式で収納できるようになっています。

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強化リールフット。大型魚とのファイトで高負荷がかかるフット部はフレームに直接取り付ける強化タイプが取り入れられました。フット前側は長めに設定された不等長デザインになっています。ちなみに現代のトローリング用リールシートには取り付けられませんでしたw

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レザー製サムブレーキパッドも標準で装備されています。アンチリバース・スタードラグがあったとしても、アングラーはとっさにスプールを押さえてしまうものです。そんな理由からサムパッドが標準で付いていたのかもしれません。

すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

画像左はB-Ocean 右はPenn US Senetor 113N です。こうして並べてみると、PennリールがB-Oceanの影響を大きく受けていることが良くわかります。金属フレームにベークライトプレートというボディーデザインは、B-Oceanが元祖で、100年を経た現代のPennセネターにも、その遺伝子が感じられます。それにしても…4/0サイズのセネターが小さく見えますねw


すべての始まりはここから ~  Julius vom Hofe B-Ocean Reel~

ボシェンが考案したスタードラグリールのパテントは1928年に消滅しました。その直後にOcean CityやPfluegerは、B-Oceanスタイルリールの製品化をおし進め、1932年にはPenn Fishing Tackle Mfg社が創業しました。これらのメーカーは、大量生産・低価格でスタードラグリール提供し、大衆向けのソルトウォーターフィッシングタックルメーカーとして大躍進していきました。

大量生産時代へとシフトしていった釣具市場の変化についていけなかったのか…(?) Julius vom Hofe社は、1939年(ジュリアスJr.が永眠した年)にリールメーカーとしての経営に幕を閉じました。同年に兄弟メーカーのEdward vom Hofe社もOcean City社へ経営統合され、Vom Hofeリールの長い歴史は終焉を迎えたのでした。



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