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2021年08月21日

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~
TOYO SEIKI CO, LTD.
KUROSIO SPECIAL REEL No.52
KUROSIO SPECIAL REEL No.54
KUROSIO SPECIAL REEL No.55


今回は和製オールドのお話です。過去記事でも紹介した黒潮リールです。

戦後復興期。日本の釣りは、オリムピック300型や500型など、金属プレス加工のシングルアクションリールが徐々に普及していきました。1955年以降は大和精工や東洋精機といった後発メーカーも金属製リールの製造販売を開始しました。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

黒潮リール。静岡県沼津市大諏訪の " 株式会社 東洋精機(現東洋電産) " で、1955年〜1974年頃まで製造された金属製リールです。このクラスのリールとしては画期的なマルチプライング設計で、従来型のシングルアクション No.50をのぞき、他モデルは 2 : 1 もしくは 3 : 1 といった(当時としては)ハイギアードな設計が採用されました。さらに壊れにくく、塩害にも強い、といった評判により全国的に人気を博していきました。一部のモデルは海外へも輸出されました。





東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~
KUROSIO SPECIAL REEL No.55 Type A
KUROSIO SPECIAL REEL No.55 Type B


画像は黒潮リールのハイエンドモデルNo.55。輸出もされた海外戦略モデル(?)です。No.55の他には、ひとまわり大きなNo.70-D(ワイドスプールのA型のみ設定)も輸出モデルとしてラインナップされていました。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

画像はワイドスプールのNo.55 A型とナロースプールのNo.55 B型。ABUでいえば6500Cと4500Cのサイズ感です。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

No.55(No.77-D)は他の黒潮リールとはちがい、フレームにサイドカップで蓋をする、米国のケンタッキースタイルリールのデザインが取り入れられています。左右のサイドカップは片側2本のネジで固定されていて、分解・組み立てが非常に楽です。フレームが1パーツとして独立しているので、フィッシュオリムピックリールのようなシビアな組み付け調整は必要ありません。このメンテナンス性の高さも人気のひとつだったのかもしれません。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

No.55には、他モデルと同じくストッパー(アンチリバースロック)とクリッカーが標準で装備され、その他に BRAKE 機能も追加されました。このブレーキは、大型魚ファイト用のクリッカーテンションコントロールで、3段階でテンションを変えられます。このブレーキが良くできているのは、テンションは逆転のみに作用し、巻き上げは軽いままということです。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

構造はいたってシンプルでクリッカー板バネの逆転側に、ブレーキバネを押し付ける仕組みです。フライリールのドラグと同様な機能ですね。これがチヌ(黒鯛)釣りに重宝されました。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

輸出仕様のNo.55やNo.70-Dは、米国のベイトキャスティングリールを模していますが、ベイトキャスティングリールとは似て非なるもので、決定的な構造の違いがあります。ギア比 3 : 1 の黒潮リールは、ハンドルとスプールが同方向に回転するダイレクトリールなのです。この独特な構造は、米国の短竿を使ったベイトキャスティングにはあまり向きません。ロングロッドを使う英国のコースフィッシング(流し釣り)などの方が相性は良いと思われます。もしかしたら輸出先は欧州がメインだったのかもしれませんね。


普及モデルのNo.52 ,No.54 も見ていきましょう。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~ 東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~
KUROSIO No.52 / KUROSIO No.54

ギア比 2 : 1 のNo.52は、ハンドル軸がセンターからオフセットした従来のダブルマルチプライングタイプです。ギア比 3 : 1 のNo.54 ,No.55 ,No.70-Dは、ハンドル軸がセンターにあり、4枚のギアを介して増速させる構造です。4枚ギアモデルは右プレートに厚みがあるのが特徴です。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~ 東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~
KUROSIO No.52 / KUROSIO No.54

黒潮リールは製造時期によってスプールに穴開け軽量加工されたものと、穴の無いものがあります。詳細は不明ですが後期ロットで穴無しスプールになったと思われます。画像のNo.52は穴あきスプール仕様です。(おそらく初期型)

日本での黒潮リールの使われ方は、長竿の補助アイテム的な位置付けで、沼津のダンゴ釣りの人たちが仕掛けを投入する時には、竿を竿掛けに置いて、リールから、あらかじめラインを引き出しておいて、ダンゴを手で直接投げ込んでいました。付け餌のみの時は、長竿の弾力を活かして軽く振り込む…といった感じです。つまり黒潮リールがキャスティングリールとして使われることは、ほぼ無かったといえます。(沼津以外の)他の地方でも、例えば波止の落とし込みや、筏釣りに使われることが多く、投げ釣りで使われることはありませんでした。


東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

さて、沼津地方で生まれた " 黒潮リール " とセットで語られることの多い " 沼津竿 " の存在も無視することはできません。沼津竿についても触れておきます。

沼津竿は、昭和30年代(1955年〜)の沼津の黒鯛釣りには欠かせないものでした。沼津竿とは竹製の10本〜15本継ぎ中通し竿です。竿茂の沼津竿が有名ですね。非常に高価な和竿で当時の釣り人の憧れの品でした。(現在の中古流通品もかなり高価です)

のちに安価な振出式の沼津竿(風)のグラスロッドが市場に出回るようになり、80年代末期頃までは普通に釣具店に置かれていました。ぼくもカーボン製振出の沼津竿を1本持っていました。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

竿茂 沼津竿 10本継中通し

沼津竿発祥のエピソード(言い伝え)が、これがまた面白いので紹介します。

1926年〜(昭和初期)頃。世界恐慌の影響が日本に及ぶ前の活気付いていた時代…。沼津にひとりの釣り好きな建具職人がいました。彼は仕事中に親方の目を盗んでは釣りに出かけてしまうという…釣りバカぶりで、長い仕舞寸法の竿を持ちだすのは、親方に見つかってしまうため、その竿を10本継ぎの小継竿に改造して、それを懐に忍ばせて釣りに行くようになりました…。これが沼津竿の発祥と言われています。沼津竿が10本継以上のマルチピース仕様である理由は、懐に隠すためだったんですね…w 

戦後の1945年以降(昭和20年〜)には、オリムピックリールなどが組み合わされるようになり、黒鯛の夜釣りで、闇間でも糸がらみしにくい " 中通式 " に改良されました。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

沼津で沼津竿や黒潮リールが発明されたのは、その地方独特な釣法に由来すると考えられます。対象魚は黒鯛です。

東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

沼津はかつて製糸(絹糸)産業が盛んで、製糸工場から出た蚕のサナギ殻が狩野川に廃棄されていました。そのサナギが狩野川河口から潮流にのって内浦湾へと流れつき、それらの栄養価の高い餌に黒鯛が居着くようになりました。そのため沼津の内湾ではサナギが黒鯛釣りの特効餌となり、サナギ釣法(沼津釣法)が生まれました。沼津釣法とは、ダンゴのぶっ込み釣りです。沼津釣法に都合良く開発されたのが黒潮リールであり、沼津竿であったわけです。


東洋のモダンリール ~ KUROSIO REEL No.55 ~

黒潮リールが、5.4m〜6.3mの沼津竿(中通し竿)との相性が抜群に良いのは言うまでもありません。ぼくが若かりし頃(80年代末)バイト先の社長に連れられて、毎週のように沼津や西伊豆方面へ釣りに行っていた時期がありまして…。毎週、同じ堤防で見かける、地元の高齢の釣り人が沼津竿と黒潮リールを使っていました。黒鯛釣りはもちろんのこと、夕方の小アジ釣りにも沼津竿+黒潮リール。何を釣るにもその組み合わせでした。そんなベテラン釣り人の影響もあって、ぼくも中通し竿を使うようになりました。当時組み合わせていたリールはFujiリールでしたけど…w


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